夢の酒

幻想の向島、夢の続きのファンタジー

【あらすじ】
梅雨時に、奥の間でうたた寝をしていた若旦那。女房が起こすとやけに機嫌が悪い。理由を尋ねると良い夢の途中だったという。その内容を聞き出した女房は、亭主が夢の中で向島に行って、見知らぬ美女に浮気をしたことを知る。どうにも収まらない女房は大旦那に「夢で向島まで行って、当の女を叱りつけてきて欲しい」と無理な懇願。そんなことができるものかと疑いつつ大旦那が呪文を唱えて昼寝をしてみると、本当に夢の中では向島の美女が登場して…。

【聴きどころ】
他人の夢の続きを見るという、荒唐無稽で幻想的なストーリー。雨で家にこもりがちになる、梅雨の時節にぴったりの一席です。秘かに浮気願望を持つ若旦那の夢が、後半では酒に目がない大旦那の夢へと引き継がれています。まさに夢心地の接待を受ける向島の家で、大好きな熱燗を待ちわびるもどかしさ。さらりと語りながらも、客を夢の中へとぐいぐい引き込む桂文楽師の芸はさすが。

【もうひと言】
他人の夢の続きを見るための、不思議な呪文が登場します。淡島さまの上の句を読み上げ、「夢の場所へ導いて下されば、必ず下の句をお読み致します」とお願いするくだりがそれ。浅草に末社がある紀州の淡路神社は、女性の病気や安産にご利益があるとされる色っぽい神社。息子の浮気相手を見てみたいと思う大旦那の下心も暗に示しているわけです。

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