甲府い

おからを盗んでひらけた未来　（解説付き）

【あらすじ】
豆腐屋の店先で、おからを盗み食いした男が捕まります。はなしを聞くと、男は名を伝吉といい、甲府から江戸へ出てきたところで財布をすられ、一文無しになってしまったとのこと。あわれんだ豆腐屋の主人は、同じ法華宗でもあるし、これも何かの縁と伝吉を店ではたらかせることにしました。三年間まじめにはたらいた伝吉は、豆腐屋のひとり娘お花と所帯をもち、さらに仕事にはげみます。こうしてますます店は繁盛し、伝吉が故郷を出てから五年の歳月がながれました。伝吉は五日ほどひまが欲しいと申し出ます。自分を育ててくれた甲府の叔父さんに会いに、そして五年の願掛けをした身延山に願をほどきに行きたいというのです。豆腐屋のご隠居はこころよくこれを許し、赤飯を炊いて夫婦ふたりの甲府への旅を祝福するのでした。

【聴きどころ】
まじめでひかえめ、一生懸命はたらく伝吉が、一文無しから豆腐屋を繁盛させるという、一点の曇りもないサクセスストーリー。孝行、信心、勤勉、夫婦の絆など、日ごろおろそかにされがちな大切なこと思いださせてくれるのはもちろん、最後にはお赤飯までふるまわれるという、たいへんおめでたい噺でもあります。まじめな心を思い出したいときに、じっくりと聞いていただきたい一席です。

【もうひと言】
豆腐屋のご隠居はまじめすぎる伝吉にシャレの指南を行ないますが、これがサゲへの伏線ともなっています。豆腐屋の売り声「豆腐、ごま入り、がんもどき」が見事な地口附で料理されるサゲを聞けば、「甲府ぃ」という不思議なタイトルの意味もあきらかになることでしょう。

[収録：2007年10月18日　アイリス落語会（東京・赤坂）]

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