強情灸

燃えよ江戸っ子！（解説付き）

【あらすじ】
ある男のところに兄弟分がやってきて、近所で灸を据えてきたと自慢話が始まります。「背中の右側に16粒、左側に16粒合わせて32粒、一粒ずつ据えるところをいっぺんに据えてきた。熱くてたまらないのを我慢してると、まわりの人は『この人は本物の江戸っ子だ、すごいっ！』と感心するし、粋な年増は『まあなんて男らしい人なんだろう』と思ってやしねえかと思って……」。聞いていた男はむらむらと闘争心が湧き起こります。「なにを言ってやがんだ、灸なんか熱くもなんともねえ！　俺が本当の灸の据え方を見せてやる」と、その場で腕にもぐさをてんこ盛りにして火をつけます。しかしやっぱり熱い。釜ゆでの刑にされた昔の大泥棒の歌を思い出して、気を紛らわそうとするのですが……。

【聴きどころ】
江戸っ子のやせ我慢ぶりは銭湯でも発揮されます。「東京下町の銭湯は湯が熱い」というのが定説になっていますが、「熱い」とは決して言わないのが、江戸っ子の美学です。「ああ、ぬるいねえ」「ぬるいんだから動くなよぉ」……マクラには江戸っ子を笑ったそんな部分がでてきます。ふたりのやせ我慢ぶりはたわいがなく馬鹿馬鹿しいのですが、可愛げがあります。夢吉さんのキレがいい語り口が楽しく、また腕に盛大に灸を据えた男が熱さに悶え苦しむ様はリアルで、聞いているこちらも熱くなってきます。サゲも気が利いています。

【もうひと言】
上方では「やいと丁稚」という噺。六代目三遊亭圓生によると、明治ごろ、地方の銭湯で熱い浴槽に「東京湯」と書いてあったのを見たことがあるということですから、江戸っ子のやせ我慢は全国的に有名だったのかもしれません。

[収録：2008年6月18日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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