三文銭

三枚の小銭に秘められた恋（解説付き）

【あらすじ】
江戸は文政のころ、日本橋に三崎屋という油問屋がありました。ここで人足として働く留吉は、懐に手を入れてもぞもぞしながら「ひぃ、ふぅ、みぃ」と数を数える、変わったくせがあります。じつは以前、川崎の旅籠屋に奉公していた時に、仲間に誘われて博打に凝ってしまった留吉は、ある時すっからかんになってしまいました。着物を売ってもう一勝負と、往来で着物を脱いで振り回していると、若い娘が近づいてきました。「その着物を買おうというんじゃない。どうせ博打ですっからかんなんだろ。ヤケになって身投げも同然だ。黙って見過ごすわけにはいかない」と睨みながら、一文銭三枚を恵んでくれたのです。留吉は、それからはつきものが落ちたように博打をすっぱりやめましたが、その時の三文銭が一つでも欠けないように糸で結んでおき、邪心が起きた時に娘の面影を思い出しながら、「ひぃ、ふぅ、みぃ」と懐の中で数えるのです。この事情を聞いた三崎屋の主人源左衛門が感心して、留吉にソロバンを持たせることにしたのでした。留吉は身を粉にして働き、今では立派な手代です。それから何年もたったある春先、三崎屋の一行が蒲田の梅園に花見にでかけると、一行が立ち寄った茶店で忙しく働く一人の女がいました。その女はなんと……。

【聴きどころ】
博打に溺れた男をきっぱりと叱りつけ、救う娘。時にくじけそうになりながらも三枚の小銭を心の支えに、懸命に生きる留吉。じっくりと男女の人間ドラマが描かれます。

【もうひと言】
この噺は夢丸師匠が台本を公募する「夢丸新江戸噺」2007年度優秀賞受賞作品（作・山田浩二）です。まだ生まれて間もない噺といえますが、これから夢丸師匠はじめ、いろいろな人の口演によって高座で鍛えられていくのでしょう。私たちはその現場に立ち会っていると思うと、これからが楽しみです。

[収録：2008年6月18日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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