雛鍔

セレブはお金を知らない？

【あらすじ】
植木職人の熊が仕事から帰ってきますが、なぜか機嫌が悪い。不審に思った女房がわけを尋ねます。熊が言うには、お屋敷の庭で仕事をしていると、若様が通りかかり、落ちていた穴あき銭を拾い上げた。銭を知らない若様は重役の三太夫に「これは何じゃ？」と聞くと逆に「何とおぼしめす。お当て遊ばせ」。若様はしばらく考えてから「まあるくて四角い穴があいていて、表に字が書いてあって裏に波が彫ってある、これはお雛様の刀の鍔であろう！」と答えたのだと言います。…これを見ていた熊は、子供が銭を知らないなんて、なんて鷹揚で上品なんだろう、とすっかり感心します。それに比べて同じ年頃の自分の息子の金坊ときたら、親の顔を見れば銭をねだってばかり。金坊にも「おめえにはこんなことがいえないだろう」としきりに嘆いています。金坊を外へ追い出してしまうと、得意先の旦那が訪ねて来ます。すると金坊が「こんなもの拾った～」と小銭を高くかかげて戻ってきました。

【聴きどころ】
親の説教なんざどこふく風、小生意気な金坊は小遣いを手に入れるためには手段を選びません。女房も心得たもので「長屋の子供衆なんてのは少しの小遣いで遊んでるぐらいのがちょうどいいんだよ」と現実的ですが、単純な熊といえば、すっかり「お屋敷かぶれ」してしまっています。自分の身分を忘れて、見栄を張る熊が思い悩む様子が可笑しい。一之輔さんの男らしい口調が、家族の温度差を強調して笑わせます。

【もうひと言】
お屋敷で見聞したことに感心して、長屋でやってみて失敗するという、「青菜」などに似た噺です。銭に関する滑稽譚は数多く、ある大店の太夫が銭を知らないので評判が立ったのを真似して、小店の女郎が失敗する、という笑い話もあります。

[収録：2008年2月2日　コア石響（東京・四谷）]

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