十徳

前座噺というけれど

【あらすじ】
ご隠居が奇妙な着物を着て歩いているのを見かけた町内の若い衆、ふだんから知ったかぶりをする八公にあれは何だと問いつめますが、八公は知りません。悔しい思いをした八公、ご隠居を訪ねて聞くと「十徳」というのだと教えてくれますが、八公はなぜそんな名前なのかと食い下がります。困ったご隠居は「下の方にひだがあって立った姿が衣のごとく、座るとふわっと広がって羽織のごとく。ごとくごとくで十徳だ」と珍妙な説明でごまかします。加えて両国橋や一石橋の名のいわれまで教えてもらった八公は、さっそく聞いたばかりのうんちくを披露しようと、仲間のところにやってきます。

【聴きどころ】
落語会収録当日では、この噺の前に、鈴鈴舎馬るこさんがパワー全開の「ハングルがまの油」に続けて「牛ほめ」に突入するという荒技をやってのけたのですが、それをうけて遊雀さんが「落語は確実に崩壊の一途をたどっていますね（笑）」と「十徳」を披露することになりました。せっかく仕入れたネタを皆に聞いてもらえず駄々っ子のように泣きじゃくる八公は、いつもの遊雀節炸裂です。さらっとした前座噺でも、やっぱり独特の雰囲気をつくってしまう遊雀師匠ワールドを楽しんでください。

【もうひと言】
十徳は、丈の短い羽織に似た外出着。茶人などの文化人がよく着用したもの。また「一石橋」（東京都中央区、日本橋川にかかる橋）のいわれについては、一説によると、二人の後藤さんの援助により再建されたので、「五斗＋五斗で一石」ともじった洒落から一石橋と名付けられたと伝わっています。

[収録：2009年5月18日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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