粗忽の釘

夫が妻に言う台詞に思わず納得

【あらすじ】
引っ越して来たばかりの夫婦。妻が夫に、箒をかけたいので釘を打ってくれと言い出します。渋々ながら夫は妻の言いつけに従うのですが、むしゃくしゃしながら打ったため、その釘を壁に撃ちこんでしまいます。壁が薄い長屋のこと、このままでは釘の先がお隣に出ているに違いない、と言うので、亭主は隣家に謝りに行くのですが……。

【聴きどころ】
東京の落語の演目の中には粗忽ものと呼ばれるジャンルがあり、文字通りその噺の主人公は粗忽な男と決まっています。この『粗忽の釘』はそうした粗忽ものの代表作の一つですが、文左衛門師の演じるこのネタの主人公はただの粗忽ものではありません。他の噺家の演じる粗忽ものは自分が粗忽であることになにがしかの自覚があるのですが、文左衛門師の『粗忽の釘』に出て来る男は怖ろしいことに粗忽であることの自覚がまるでないのです。粗忽でありながらその自覚がまるでないとどういうことになるのか。それは是非現物を聞いて確かめて下さい。

【もうひと言】
文左衛門師はその風貌に似合わず(失礼！）非常に繊細な台詞使いをする噺家です。ラジオデイズで好評発売中の文左衛門『文七元結』をはじめ、この『粗忽の釘』でもそんな文左衛門節は健在です。夫が妻に言う「急に怒るなよ。怒るならだんだん怒れよ」は、妻帯者ならば誰もが首肯する名台詞でしょう。

[収録：2009年8月22日　池袋演芸場（東京）]

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