へっつい幽霊

あの世からの返済催促（落語随談付き）

【あらすじ】
道具屋の店先にあるへっつい、ある客が三円で喜んで買っていきますが、夜中の二時頃におびえながらひきとってくれと道具屋に駆け込んできます。半値の一円五十銭でひきとってまた店先に出すと、いい品物なのですぐに買い手がつきますが、夜中になると青い顔をしてひきとるように頼みに来ます。品物が戻ってくるのに毎度一円五十銭のもうけがでます。返しにきた客にわけを尋ねてみると、夜中になるとへっついから幽霊が「金返せ〜」と出てくることが分かりました。さすがにその噂が広まり、当のへっついどころか、他の品物もぱったりと売れなくなってしまいました。困った道具屋は女房と一円付けて誰かにもらってもらおうと話していると、裏に住んでいる遊び人の熊がこれを聞きつけ、勘当されて長屋に住んでいる若旦那の金ちゃんを誘って、一円ほしさにこのへっついを引き受けます。ふたりでへっついを長屋に運んでいるうちに壁にぶつけてしまい、へっついの角がかけるとそこから紙包みが転げ落ちます。開けてみると、なんと三百両の金が出てきました。

【聴きどころ】
幽霊付きのへっついをめぐっておどろおどろしい怪談話になるかと思いきや、（幽霊を含めた）登場人物すべてがお金をめぐってかけひきをするという、ユニークな噺です。貧乏長屋で逼塞している熊と金ちゃんは、山分けにした百五十両ずつを二人とも一晩でぱっと使ってしまうという潔さ。ところがこの幽霊は気が弱く、熊に追い詰められて、「え、でもそれは、あわわ……」と口ごもってしまう、鯉昇落語の住人です。

【もうひと言】
この噺ももとは上方種で、「竃の幽霊」または「かまど幽霊」を三代目三遊亭円馬が東京に移したものといいます。昭和では、もと賭場でもならした三代目桂三木助が得意にしていました（サイコロを振る場面がリアルすぎて当初は評判がよくなかったとか）。へっついというのは台所に置く竈。現在のガスレンジのようなものです。

［収録：2008年7月5日　コア石響（東京・四谷）］

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