熊の皮

こわい女房を連想させた黒い皮（落語随談付き）

【あらすじ】
八百屋の甚兵衛は女房の尻に敷かれっぱなし。野菜をすべて売り尽くして帰ってきても、なかなか家に上げてもらえません。やれ水くみだ、やれ洗濯だとこき使われたあげく、横丁の医者のところへ行かされてしまいます。医者のところへ着いたら、いただいた赤飯のお礼を伝え、さらに「女房がよろしく申していた」と言い添えることがなにより肝心、と念を押されていた甚兵衛。しかし、ついそのことを忘れ、医者と話し込んでしまいます。ところが医者から、治療のお礼に賜ったという熊の毛皮の敷物をみせられたとたん、甚八はあることから女房を連想し、ハッとその伝言を思いだしたのでした。

【聴きどころ】
水くみ、米とぎ、洗濯もの……。次々と女房に家事を言いつけられても、甚兵衛はただその命令に従うだけ。自分が女房の尻に敷かれていることはしっかり自覚はしていながらも、もはや刃向かう気力もありません。そんなあきらめが漂う、医者の家への道すがらのひとりごとが「なんで、あんなかかあといっしょになっちゃったんだ」。男の哀愁を感じる場面です。この徹底した尻への敷かれ具合があってこそ、サゲが成り立つ噺なのでした。

【もうひと言】
ひょんなことから女房のことを思いだす場面、この噺の原話では、熊の毛皮から女房の下の毛を連想するという、かなりセクシャルなものが採用されていました。同系列の男女が逆転した小咄では、松茸で亭主を思いだすというものまでありますが、この一席ではそういった生々しさを避けて、もっと品良くさらりとサゲています。

[収録：2008年2月9日　毘沙門天善国寺（東京・神楽坂） ]

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