寝床

聞くも地獄、聞かぬも地獄のシロウト芸

【あらすじ】］
大店の主人は素人ながら義太夫に凝っています。あるとき義太夫の会を催そうと、酒や料理を用意して客を待ちますが、なぜかだれひとり現れません。長屋の連中は急な仕事や無尽、お産などをいいわけに、また店のものは仮病をつかっていたのです。というのも、主人の義太夫はおそろしくヘタクソで、聞けば病を患ってしまうほどひどいものなのでした。客がひとりもこないと知った主人は怒り、長屋の連中は追いだし、店のものにはひまを出すと言い放って、ふて寝してしまいます。困った一同はなんとか主人の機嫌をとって義太夫の会を再開してもらいます。いよいよ義太夫語りがはじまりますが、案の定、まともに聞けたものではありません。酔っぱらうが勝ちとばかりに一同酒を飲みはじめ、ついにはみんなすやすやと寝入ってしまうのでした。

【聴きどころ】
主人は怒りに聞く耳もたない状態から、あれこれおだてられて、しだいに機嫌が直っていき、ついには拒んでいた義太夫をやりはじめます。有名な落語ではありますが、主人の微妙な心理変化を描写するという、なかなかに演ずるのがむずかしい噺でもあります。義太夫に関する素養も必要なこの一席をみごとに聞かせるのは八代目桂文楽。大名人の語りで聞く素人芸というのもまたオツなものです。

【もうひと言】
ヘタの横好きということばもありますが、そのあたりは主人も分かっていて、けなげに酒や料理を用意してなんとか義太夫を聞いてもらおうとします。しかしお客は眠ってしまい、サゲの定吉のセリフはグサッときます。このある意味笑えない部分をうまく笑いにつなげるのが、ヘタな義太夫の破壊力をおおげさに言い連ねる虚構の部分。ウソとホントがお互いをうまく引き立てあってこそ生まれ得た名作です。

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