時そば

そば屋で遊ぼう！（解説付き）

【あらすじ】
昔はそば屋といえば、振り分けの簡易な屋台を担いで歩くものでした。ある晩そば屋に客が来て屋号が「当たり屋」だと知ると「博打行くときにゲンがいいよ」。そばが出てくると「速い！江戸っ子は気が短いんだ、こうでなくちゃ」。箸、器、だし、下地（醤油）、そば、ちくわ一つに至るまで気味が悪いほどに誉めまくります。さて勘定の段になって懐から小銭を取り出し「ひい、ふう、みい…なな、や、今何時だっけ？」「九つでございます。」「とお、…十六」。一文ごまかしてさっと行ってしまいました。これを脇でじっと見ていたのが少々ぼおっとしている男です。「なんだい、ありゃ、世辞使いやがって……勘定のあいだに時を聞く間抜けもないもんだ、ひい、ふう、みい…あっ！」。自分で再現してみて、ようやくごまかしに気付きます。真似したくなった男は翌晩小銭を用意して待ちかまえますが「そばーうーあ…あ～あ（ため息）」いやに元気のないそば屋に出会います。

【聴きどころ】
風が冷たくなって、朝晩ぐっと冷え込むようになると聴く機会の増える噺ですが、シンプルなだけにそれぞれの工夫が楽しい一席です。最初の男のごまかしにすぐに気付くタイプとなかなか理解できない算数の苦手？タイプがありますが、談笑師匠は後者です。二台目のそば屋がいかに駄目な店であるかの表現も噺家さんの個性が見えるところ。このそば屋は「おっかさんが一月前に死んだばかり」と嘆いていますが、今はなきおっかさんがコンロの火を入れてくれるという、恐ろしいそば屋でした。全編に師匠独特のブラックユーモアが効いています。

【もうひと言】
ご存じの通り、サゲのポイントになっているのは江戸の時刻の数え方。最初の男がそば屋をつかまえるのは九つ（夜12時頃）。ふつうの演出では主人公の男が最初の晩より早く出かけてしまって、ごまかしに失敗するのですが、この場合は少し遅くなってから出かけたために失敗してしまったようです。

[収録：2008年11月18日　関交協ハーモニックホール（東京・西新宿）]

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