不精床

ここまで来れば無精も芸のうち（解説付き）

【あらすじ】
ある床屋。空いているからすぐやってくれるだろうと客が飛び込みますが、ここの親父がとんでもない無精者。「客なんか面倒くさい」てなものです。頭を湿す湯などというものはなく、客は自分で水を柄杓で汲まなければなりません。ところが、この水が開店してから一度も取り替えたことがないという代物。ぼうふらが沢山わいていると客が文句を言うと「わいてるんじゃねんだよ。可愛がってるんだ」という返事。この親父、面倒くさいので小僧に頭を剃らせますが、なんと今日初めて人間の頭を剃るということが判明。客はこわごわ剃らせますが…。

【聴きどころ】
客が入ってくるのをかえって迷惑がるような、偏屈を通り越してトンデモな床屋の親父を、志ん橋師匠が楽しく演じています。持ち前のストレートな力強い声が、変わり者の職人らしさを出しています。考えてみれば結構ひどい話なのですが、やむを得ずこれに付き合う羽目になった客も、文句を言いながらもぼうふらを観察したりして、けっこう呑気者。どっちもどっちというところ。どちらかというと他愛のない噺ですが、のんびりした昔の床屋の雰囲気を感じさせてくれます。

【もうひと言】
五代目古今亭志ん生がよくかけていました。本来のサゲはちょっとブラックなものですが、志ん橋師はサッパリと途中で切っています。床屋を舞台にした噺は数多く、「浮世床」「崇徳院」などなど。昔はまげを結っていましたから、男は定期的に、元結を切って月代（さかやき）を剃って、髭を剃って……が身だしなみには必須だったのです。上方では「けんつく床」。

[収録：2008年7月16日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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